生物は、細胞増殖と形態形成とを連携制御するチェックポイント機構を持つ。本研究では、酵母をモデル系として、本チェックポイント機構に関与する、新規連携制御系の解析を進め、以下の点を明らかにした。 (1)蛋白合成と細胞増殖との連携制御機構の発見 蛋白合成系と細胞周期制御系との連携制御機構を解明するため、蛋白合成阻害と細胞周期進行の関係を詳細に調べた。その結果、細胞周期エンジンCdc2-Cdc13を負に制御するキナーゼWee1が、蛋白合成阻害時の細胞周期遅延に必須であることを見いだした。実際、蛋白合成阻害シグナルによって、Wee1が転写および転写後調節のレベルで活性化されること、さらに、この転写制御には、Sty1 MAPキナーゼ経路が重要であることを示した。この機構は、生物のサイズコントロールの分子基盤である可能性が示唆された。 (2)出芽酵母Ca2+情報伝達欠損株を利用した生理活性物質の新規スクリーニング系の開発 出芽酵母Ca2+情報伝達欠損株は、特殊な遺伝的背景のもとで、Ca2+耐性および異常形態の抑圧という表現型を示す。この表現型を利用すれば、Ca2+情報伝達経路の阻害物質が、Ca2+耐性および異常形態の抑圧という正の表現型として、選択可能である。このスクリーニング系による、新規生理活性物質の開発が期待される。 (3)Gsk3キナーゼMck1とカルシニューリンによる出芽酵母の細胞周期制御機構の解明 出芽酵母Ca2+情報伝達経路による細胞周期制御系を解析する過程で、Gsk3キナーゼMck1を同定した。解析の結果、Mck1はカルシニューリンと協調して、Hsl1キナーゼ(細胞周期エンジンCdc28-Clbを負に制御するSwe1キナーゼの負の制御因子)の蛋白分解と細胞内局在に重要な役割を持つことを見いだした。
|