これまでの研究から真核生物の遺伝的組換えは、ホットスポットと呼ばれる特定部位で開始される。我々は、組換えホットスポットが染色体上で特異な「開いた」クロマチン構造を取る事を見出した。さらにCRE様転写制御配列を含む分裂酵母のホットスポットade6M26周辺のクロマチン構造が、減数分裂期に再編成を起こし、組換え活性化に必要な開いたクロマチン領域が形成され、また、組換えホットスポットの活性化に必要な転写因子Atf1/Gad7-Pcr1が、このクロマチン構造変化に必須であることを示した。 クロマチンを構成する最も基本的なタンパク質ヒストンは、転写制御に関わる仲介因子に付随するヒストンアセチル化酵素活性によってアセチル化を受ける。最近ヒストンのアセチル化の程度によって、遺伝子発現や組換えが制御される可能性が示唆されつつある。そこで本年度は、ade6M26組換えホットスポット周辺のクロマチン構造における、ヒストンアセチル化の役割を調べた。まず、野生型ade6遺伝子またはホットスポット型ade6M26遺伝子を有する分裂酵母細胞について、抗アセチル化ヒストン抗体を用いたクロマチン免疫沈降法を行うことにより、組換えホットスポット周辺の染色体領域でどの程度ヒストンのアセチル化が生じているかを調べた。その結果、ホットスポット型のade6M26遺伝子座ではアセチル化が有意に高くなっていることが明らかになった。 一方、出芽酵母などで明らかにされているヒストンアセチル化酵素・脱アセチル化酵素の遺伝子を分裂酵母ゲノムデータベースから検索し、GCN5相同遺伝子を新規に単離した。この遺伝子破壊株では、減数分裂時にade6M26遺伝子座でクロマチン再編成が遅れて起きることを見出した。以上の結果は、ade6M26組換えホットスポットにおけるクロマチン再編成に、ヒストンアセチル化による制御が関与することを示唆している。
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