新規のMAPKである。JNKやp38はストレス刺激によって活性化され、アポトーシスへの関与が知られている。しかし、最近、私は、JNKやp38がストレス刺激ばかりでなく、赤芽球や巨核球の増殖や分化を制御しているエリスロポエチン(EPO)やトロンボポエチン(TPO)等のサイトカインでも活性化されることを見い出し、造血細胞の増殖及び分化に関与するという新しい生理機能を明らかにした。増殖分化とアポトーシスという異なる応答になる要因として、JNKやp38経路の活性化の強さ、もしくは活性化されている持続時間の違いを検討した。高レベルのストレスでは、JNKやp38の持続的な活性化あるいは強い活性化が起こり造血細胞のアポトーシスを誘導するが、逆に低レベルのストレスでは、一過的な活性化あるいは弱い活性化が起こり分化を促進した。したがって、分化とアポトーシスのシグナルは部分的に共通であるが、それらの活性化のレベル、タイミング及びバランスにより、分化かアポトーシスかの方向が決定されると考えられた。そこで、さらにJNKに至る上流のシグナル伝達経路を調べた。EPO刺激の場合には、血球系細胞に特異的に発現している上流のMAPKKKである。HPK1が細胞増殖と分化に関与していた。一方、ストレス刺激の場合には、HPK1は少なくとも造血細胞系においては活性化されず、HPK1とは異なる経路がJNKを活性化してアポトーシスを誘導すると考えられた。このことから、刺激の種類や細胞の種類に応じて、JNK及びp38経路を活性化する上流のキナーゼの組み合わせを様々に変えることにより、多様な刺激に応じた質的に異なるシグナルへと変換し、様々な機能を果たしているのではないかと考えている。 現在は、造血系の細胞の増殖や分化を制御する新規因子を同定するために、マウスの骨髄細胞から単離した巨核球を用いてTPOにより発現する因子のcDNA断片をPCR-Subtraction法により14クローン単離しており、それらを解析中である。
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