脊椎動物に特有な細胞集団である神経堤細胞は、神経管の背側より胚体内を広範囲に移動し、末梢神経系や色素細胞、また頭部では軟骨などの間葉系の細胞を形成する。 申請者は、神経堤由来の細胞種のうちシュワン細胞の前駆細胞で特異的に発現する新規の遺伝子millipedeを単離した。この遺伝子はEGF様の繰り返し配列を5つ持つ分泌蛋白質をコードしてた。またこの遺伝子は非常に早期のシュワン細胞の前駆細胞に一過的に発現していた。 シュワン細胞で発現する遺伝子であるP0遺伝子のcDNAをウズラより単離した。P0とmillipedeの発現を比較したところ、millipedeの発現がP0に先立って始まること、シュワン細胞の分化にともなってP0の発現が上昇する時にmillipedeの発現がなくなることが分かった。これにより、今まで不明だったシュワン細胞の分化初期過程がこれらの遺伝子の発現によりいくつかの時期に分けられることがわかった。次に、分泌性のリガンド分子であるmillipedeの標的細胞は何かを調べる目的で、アルカリフォスファターゼとmillipedeの融合蛋白質を発現するベクターを構築し、培養株細胞であるCos7に遺伝子導入を行った。そして、得られた培養上清を用いて組織切片を染めたところ、シュワン細胞を含む神経索が陽性となった。また、培養神経堤細胞も陽性になったことから、millipedeがオートクラインもしくはパラクラインに神経堤細胞に作用することが考えられた。そこで、培養神経堤細胞にmillipedeを導入したCos7の培養上清を与えたところ、P0を発現する細胞の数が劇的に増加した。このことから、millipedeはシュワン細胞の分化や増殖を制御していることが示唆された。
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