多くの器官形成において、上皮細胞は頂部-基部軸に沿った極性を発達させるだけでなく、その軸とは直交する上皮平面内の第二の軸(planar axis)に沿った「平面内細胞極性(planar polarity)」を獲得する。平面内極性の典型例として、脊椎動物内耳の有毛細胞が作る繊毛の配向パターンや、昆虫の翅表皮細胞の遠近軸に従った翅毛形成が挙げられる。頂部-基部極性に比べ、平面内極性の分子機構に関する研究は大きく立ち遅れている。平面内極性の乱れたショウジョウバエの突然変異体が分離され、複数の原因遺伝子がクローニングされているが、それらの遺伝子産物が働く細胞内コンパートメントに関する情報はほとんどない。この点において、われわれの7回膜貫通型カドヘリンFlamingo(Fmi)の研究が、ブレークスルーを生みだした。興味深いことに、Fmiは翅毛形成に先行して、表皮細胞の遠近両側の細胞境界に濃縮する。しかもFmiのこのような偏った細胞内分布が、正常な細胞極性化に必要であることを示した。
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