ウニ胚の動植物軸は卵形成過程で決定され、中胚葉性の一次間充織細胞(PMC)は、16細胞期胚の動植物軸の最も植物極寄りにある4個の小割球に由来する。PMCは骨を形成するばかりでなく内中胚葉誘導能力がありウニ胚の形態形成の中心的役割をはたすが、その分化の決定機構および、分化に大きくかかわる動植物軸の形成機構についてはほとんど明らかにされていない。この研究では、転写因子Tbを中心に、PMC分化にかかわる遺伝子のカスケードを明らかにした。1.PMC分化の要となる転写因子HpEtsの胚細胞内分布を抗HpEts抗体を用いて解析した。その結果、卵割期はHpEtsタンパク質合成速度が低くく、タンパク質は核移行シグナルをもっているにもかかわらず細胞質に留まっていること、孵化胞胚期にHpEts-mRNAとHpEtsタンパク質が急速に消失し、PMCで起きる新たなHpEts発現により合成されるHpEtsタンパク質は核に移行することが明らかになった。卵割期のHpEtsタンパク質の機能は未だに不明であるが、転写因子としては機能していないことが予想された。また、ドミナントネガティブ及び、アニマルキャップアッセイによりHpEtsはPMC分化の最終段階に働き、PMCの重要な働きである中・内胚葉誘導能力にはかかわらないことを明らかにした。2.これまでの我々の研究により、ウニのT-brainホモログHpTbは一過的に胞胚期のPMC特異的に発現することが明らかになっていた。本研究では、HpTbの機能を阻害すると、PMCは分化するものの、PMCの中・内胚葉誘導能力が消失することが明らかになった。これにより、古くから発生学上の重要な問題であったウニの小割球由来細胞による中・内胚葉誘導機構を解明するための手がかりが得られた。また、HpTbはWntシグナル伝達系の下流にあることと、HpTb遺伝子の発現調節カスケードは、同じPMC特異的に発現するHpEts遺伝子の発現調節カスケードとは異なることが明らかになった。
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