本年度は側板中胚葉部域化に伴う形態変化に着目して解析を進めた。得られた成果は以下のとおり。 1、連続パラフィン切片の詳細な観察により、未分化な側板中胚葉が、外胚葉と接する壁側中胚葉と内胚葉と接する臓側中胚葉の二つの組織に部域化する際の形態変化には、以下に示す3段階があることがわかった。(1)間充織(未分化な側板中胚葉)、(2)互いに接する2層の上皮組織、(3)2層の上皮組織の間が離れ、空間的に独立した二つの組織となる。2、間接蛍光抗体法により、細胞接着構造に局在するZo-1、cadherinなどの細胞内局在を詳細に解析した結果、細胞接着は以下の様にダイナミックに変化していることがわかった。i)間充織細胞の密度が増すにつれ、細胞同士が接する点の数も増え、徐々にお互いが多くの面積で接する様になる。ii)細胞接着面が中胚葉の厚みの中央に並び、細胞も柱状になり、互いに接する2層の上皮組織となる。この時、横に並んでいる細胞との接着と向かい側の細胞の接着が見られる。iii)向かい合う細胞同志の接着がはずれ、横に並んでいる細胞との接着のみに切り替わることにより、2層の上皮が離れ、空間が正中線に近い部分から開いて行く。この形態的に側板中胚葉が二つの組織に分かれるしくみには、これまでに私たちが明らかにしてきた、二つの組織の性質を誘導する仕組みとは異なる分子が働いている事を示唆するデータが得られた。即ち、a)、未分化な側板中胚葉と内胚葉との組織間相互作用を遮断すると、臓側中胚葉が誘導されないばかりでなく、側板中胚葉は二つの組織に分かれない。b)、一方、臓側中胚葉の誘導を行うことが明らかになったSHHのシグナルを特異的に阻害すると、臓側中胚葉の性質は誘導されないが、側板中胚葉は形態的には正常に二つの組織に分かれた。未分化な側板中胚葉と外胚葉との相互作用を遮断しても側板中胚葉が形態的に分かれないというプレリミナリーな結果も得ていること、上皮化には、細胞外基質が重要な役割を果たすと考えられていることから、内外胚葉由来の細胞外基質が上皮化に働くのではないかと考え、解析を始めている。
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