研究概要 |
蛋白分解酵素を用いた切片の前処置により改良された、シナプス後膜に局在するPSD-90/SAP90蛋白ファミリーの免疫組織化学的検出(Fukaya and Watanabe, J.Comp.Neurol.426:572-586,2000) PSD-95、SAP102、Chapsyn-110は、NMDA受容体およびShaker-typeのカリウムチャネルサブユニットのC末端と相互作用するPSD-95/SAP90ファミリーに属する蛋白である。ペプシンを用いた切片の前処置により、これら蛋白ファミリーの光顕レベルの免疫組織化学的な検出感度が、定性的、定量的に変化することを報告する。第一に、ペプシン前処置により、一次抗体の濃度が低い条件で、免疫反応の強度を高める事ができた。第二に、成熟マウスの脳におけるPSD-95、SAP102、Chapsyn-110の局在分布は、それらのmRNAの局在に一致していた。第三に、報告されているような細胞体・樹状突起の染色パターンではなく、ニューロピルにおける繊細な点状の染色パターンとなった。第四に、多くのPSD-95免疫陽性点状構造は、synaptophysin陽性神経終末と密接に相対しており、NMDA受容体サブユニットの局在と重なり合っていた.包埋後免疫電顕により、PSD-95抗体は非対称性シナプスのpostsynaptic dendityに限って局在していた。これらの結果から、シナプス後膜に局在するPSD-90/SAP90蛋白ファミリーに対して、通常の免疫組織化学の手法では、抗体の到達や結合が妨げられ、ペプシン前処置によって効果的にシナプス後膜のエピトープが現れると結論した。一方、カリウムチャンネルが多く存在する小脳の篭細胞の軸索終末のPSD-95は、ペプシン前処置をしなくても検出可能であり、PSD-95抗体はシナプス前膜のエピトープには容易に到達できる事が示唆される。従って、以上の免疫組織化学の結果は、PSD-90/SAP90蛋白ファミリーがNMDA受容体およびカリウムチャネルサブユニットと相互作用するという有力な概念を支持する、光顕レべルの証左である。
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