研究概要 |
Lセリン合成酵素3PGDHはマウスの脳で放射状グリア・星状膠細胞系譜と嗅神経を被鞘するグリアに選択的に発現する(Yamasaki et al., J. Neurosci. 21 : 7691-7704, 2001) Lセリンは蛋白、膜脂質、ヌクレオチド、神経活性アミノ酸のDセリンやグリシンなどに必須の前駆体である。Lセリンとグリシンが小脳のバーグマングリアが産生するプルキンエ細胞に対する栄養因子である事が示されている。こうした代謝におけるニューロンとグリアの相関関係が、発生途上および成熟脳で枢要な役割を果たしているかと調べるため、Lセリンの生合成での第一段階の酵素である3PGDHの細胞発現を、in situハイブリダイゼーションと免疫組織化学により検討した。神経管の壁がもっぱら脳室層で占められている発生初期には、神経上皮の幹細胞で3PGDHが強く均質に発現している。その後、ニューロンでは3PGDHの発現は減退しほとんど消失する一方で、灰白質や白質の放射状グリア、さらに星状膠細胞で3PGDHは強く発現する。加えて、嗅神経を被鞘するグリアでは、3PGDHが発生過程を通じて強く発現する。これらの結果から、こうしたグリア系細胞が脳におけるLセリンの生合成の場であると考えられた。この所見から、こうしたグリア系の細胞が、発生期および成熟期のニューロンや他のグリア系細胞のエネルギー代謝に寄与しているとする仮説について考察した。
|