Tauはアルツハイマー病(AD)に特徴的なPHFの主成分である。クロロキンミオパチー(chloroquine myopathy;CM)では筋細胞内にtauが蓄積する。我々は、AD脳におけるPHF形成の手がかりを得るため、CMでのtauの蓄積機構を詳細に調べた。その結果tauは細胞内蛋白質ではあるが、筋組織ではlysosomeで分解される可能性を強く示唆する結果を得ている。本研究ではtauのlysosom代謝経路の可能性をさらに検証した。Tauのlysosome代謝経路が成り立つためにはlysosome膜上のtauのreceptorの同定が重要になる。そこでTauのreceptorの同定を試みた。まず、rat脳よりlysosome膜を調製し、tauとの結合を調べた。その結果、tauはlysosome膜に結合し、その解離定数は8x10^<-7>Mであった。この結合は、lysosomeで分解されることが証明されているgLyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenaseで競合阻害を受けた。次にrat脳のlysosome画分に存在するtau結合蛋白質の検索を行った。Rat脳から得たlysosome画分を電気泳動で分離しtauとの結合を調べてみると、130、100、70kDaの蛋白質が結合した。そこでいくつかのlysosome膜蛋白質のC-末端部分をGSTとのfusion proteinとして発現させ、tauとの結合を調べた。その結果LIMP-IIやacid phosphatase等のlysosome膜タンパク質にはtauは結合しないが、LAMP-1およびLAMP-2とtauは明らかに結合した。また、1%Triton X-100でlysosome膜を可溶化し、tauを固定したカラムに供し、結合蛋白質を分離した。N末端からアミノ酸配列を決定したところ、主にミトコンドリアに存在するglutamate dehydrogenase(GDH)であった。TauとGDHのin vitroでの解離定数はおよそ3×10^<-7>Mであることが分かった。従ってこれらlysosome膜蛋白質がtauのreceptorとなっている可能性が高い。今後は培養細胞でこれらの結合蛋白質を過剰発現し、tauの代謝が変化するかどうかを詳細に調べたい。FTDP-17家系において、tau遺伝子に変異が同定され、tauあるいはその代謝物そのものが神経細胞死の原因となり得ることが示唆された。そこで、野生型および変異型humantauを発現するモデル動物も確立し、tauの代謝経路を慎重に検討したい。
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