嗅覚の一次中枢・嗅球において、匂い識別をはじめとする嗅覚情報処理に重要な役割を演ずると考えられる糸球体層介在ニューロン(Periglomerular interneurons)についてはこれまで報告者らの解析から、少なくとも3つの独立した化学的サブポピュレーションが存在することが分かっている。このうち既に解析を終えているCalbindin免疫陽性(CB)ニューロン(1998年論文発表)、Tyrosine Hydroxylase免疫陽性ニューロン(2000年論文発表)に引き続き、今年度はCalretinin免疫陽性(CR)ニューロンの解析を行なった。 CRニューロンはCBニューロンと同じくGABA免疫陰性ニューロンであり、また共焦点レーザー顕微鏡による三次元的な構造解析から、CBニューロンと同様に嗅受容細胞終末との近接度が低い。今年度はこのCRニューロンの複雑な構造を、解像力の極めて高い多光子レーザー顕微鏡を用いて解析を試みた。`その結果、CBニューロンとは異なり、糸球体内分枝がより多く複雑な構造を呈し、またCR免疫反応性も突起内で分布の差が見られた。電子顕微鏡による解析ではCBニューロンと同様に嗅受容細胞終末からの直接のシナプス結合(非対称性)は観察されなかった。現在、電顕連続切片再構築法による定量解析を進めている。 一方、これら多様な嗅球ニューロン群に、ステロイド代謝酵素と受容体が存在することが今年度の研究で明らかとなった。少なくとも現時点までの解析の結果、エストラジオール受容体、同合成酵素、テストステン合成酵素、同還元酵素、アンドロステンジオン(テストステン前駆体)合成酵素が、各種嗅球ニューロンに存在することが免疫細胞化学的・生化学的に判明した。これら嗅球の神経ステロイドの局在の詳細、および嗅球とステロイドの関連について更に解析を行なっている。
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