本研究は、嗅覚の一次中枢・嗅球において匂い識別をはじめとする嗅覚情報処理に重要な役割を演ずると考えられる糸球体層介在ニューロンのシナプス結合を、主に電顕連続切片再構築法により定量解析を行なったものである。これまで報告者らの解析から少なくとも3つの独立した化学的サブポピュレーションが存在することが分かっているが、このうちTyrosine Hydroxylase(TH)免疫陽性ニューロンとCalretinin免疫陽性(CR)ニューロンの解析を本研究では行ない、既に解析を終えているCalbindin免疫陽性(CB)ニューロン(1998年論文発表)の解析結果を踏まえ、糸球体層介在ニューロンが関与する嗅球神経回路について再検討を加えた。 GABA免疫陽性THニューロンのシナプス結合はCBニューロンとは全く対照的で、入力は主に嗅受容細胞終末から、一部投射ニューロンからの非対称性シナプス、出力は主に投射ニューロンへの対称性シナプスであった。一方CBニューロンが投射ニューロンとの間に形成していたReciprocal synapseは観察されなかったが、嗅受容細胞終末と投射ニューロンの間、あるいは異なる投射ニューロン間に介在するSerial synapseが高頻度に形成され、嗅球への入力(嗅受容細.胞)と出力(投射ニューロン)間の情報伝達機構にCBニューロンとは異なる機能を有しているものと推測される。CBニューロンと同じくGABA免疫陰性のCRニューロンは、CBニューロンとほぼ同様のシナプス結合が観察されており、現在より詳細な定量解析を進めている。 なお本研究遂行中、特定な嗅球ニューロン群にステロイド代謝酵素と受容体が存在することが報告者らの解析で明らかになり、多様な嗅球神経回路の調節因子としてのステロイドに着目し、新たな視点として今後の解析を展開する予定である。
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