大脳皮質の神経細胞小集団は局所的な軸索投射をする。この投射はび漫性に皮質内に分布するのではなく、軸索を投射する細胞の近傍とそれから数百μm離れた部位にパッチ状に分布する。近接して存在する細胞集団に由来するパッチ状軸索集塊が相互にどのような関係をもって情報を局所皮質領域へ送るのか、即ちある部位は一方の細胞集団から投射をうけ、また他の部位は両方の細胞集団から投射をうけるのかということを解明することは、情報の収斂という観点から大脳皮質の基本的な結合パターンを示すものと思われる。 麻酔下ネコに純音を聞かせ大脳皮質を生理学的にマッピングして、蝸牛位置再現周波数地図を描いた後に2種類の順行性トレーサーを、近接する2ケ所に電気泳動的に注入した。順行性のトレーサーはPHA-LとBDAを用い、接線方向に切った切片でそれぞれ紫〜黒および茶色に弁別し、両投射部位の局所的な相互関係を調べた。それぞれの注入部位の大きさは300-500μm程で、一次聴覚野の中心部への注入の場合では、注入部位に由来する軸索側枝はその背側と腹側にパッチ状に分布した。異なる注入部位に由来するパッチ(黒色のパッチと茶色のパッチ)の一部は重複して分布した。重複する分布は注入部位から離れた部位で形成されたパッチ間で、特に一次聴覚野の背側部で明瞭に認められた。一方パッチ形成パターンは聴覚野内での注入部位の周波数地図上での位置によっても異なった。一次聴覚野には周波数地図が前後方向に整然と配列していることを考慮すると、皮質内局所回路網が音周波数に依存性に特異的な結合パターンをとる可能性が考えられる。
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