神経細胞はその発生過程において様々な様式の細胞極性(神経上皮、非対象分裂、遊走、突起の極性化)を顕わすので、極性形成を研究するうえで特に興味深い材料である。私は、神経細胞の発生過程の中で2つのスラップ(細胞遊走と突起の極性化)をとりあげ、細胞の極性形成を培養条件下に再現しタイムラプスビデオで観察した。 1.細胞が一方向性に移動する現象は細胞極性の一様式である。胎生20日齢のラット大脳皮質細胞を、単層に敷いたアストログリア細胞の上にまくと神経細胞は活発に遊走した。このとき、前後に伸ばした2本の突起のうち1本が選ばれてそちらでのみ成長円錐が発達し、細胞核周辺の細胞質がその突起に向かって流動していく様子が観察された。細胞の遊走の方向はしばしば逆転した。すなわち、反対側の突起で成長円錐が活発になると、細胞核周辺の細胞質の流動が逆転し、多くの場合ゴルジ体が細胞内で回転した。この観察は、成長円錐が細胞核周辺の細胞質になんらかの作用を及ぼし、細胞全体の方向性を決めていることを示唆している。 2.複数生じた神経突起のうち1本が軸索となり他が樹状突起となる現象は神経細胞の最終的な極性形成である。出生直後の大脳皮質ではほとんどの細胞がすでに樹状突起と軸索を分化させ、明らかな極性を持っている。これを十分な酵素処理によって単離すると、太くて長い樹状突起を有する神経細胞を得ることができる。この細胞を低密度で培養すると、約8割の細胞で樹状突起が活発に伸長して軸索に変換した。もともと樹状突起であった部分も、taul抗体(軸索マーカ)陽性となり、MAP2(樹状突起マーカ)陰性となった。 この結果は、発生中の神経細胞の細胞極性は体外に単離されることによって失われ、培養中に再形成されることを示している。
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