研究概要 |
BDNFのシナプス伝達における長期及び短期作用について、その分子基盤を中心として検討した。 長期作用 現在までBDNFによって前シナプス部での開口放出関連蛋白のレベルの上昇とそれに伴った刺激誘発性グルタミン酸放出の増強について報告してきたので、今年度は後シナプス部における分子の変動について検討した。後シナプス部ではAMPA受容体サブユニットのGluR1,GluR2/3のレベルがBDNFにより上昇することが当研究室より報告されている。そこでGluRに結合してその受容体機能を調節している可能性が示唆されているGRIP,SAP97,Pick1という3つのPDZ蛋白のレベルの変動をしらべた。BDNFの慢性投与(5-7日間)は培養大脳皮質ニューロンにおいてこれらのPDZ蛋白のレベルを約2倍に増加させた。またBDNFノックアウトマウスの脳においてこれらのPDZ蛋白は半減していた(99年神経科学学会発表)。また電気生理学的にもAMPA電流の増加が観察されたことから(99年神経化学会発表)、BDNFは前シナプスだけではなく後シナプスにも作用し、受容体および受容体関連分子のレベルを増強させることによってシナプス伝達を増強している可能性が強く示唆された。 短期作用 培養大脳皮質ニューロンにおいてBDNFは速く一過性のグルタミン酸放出を誘起するが、海馬、小脳のニューロンにおいても同様の作用を示すことを明らかにした。またこのを機構が開口放出ではないことを光学的計測により示した(Brain Res.,842(1999))。またBDNFはグルタミン酸同様、興奮性伝達物質であるアスパラギン酸も放出させることを明らかにした(Neurosci.Res in press)。
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