研究概要 |
本研究において申請者はシナプス伝達に対するニューロトロフィン、特に脳由来神経栄養因子(BDNF)の急性および慢性作用とその分子基盤の解明を目的としてきた。BDNFの作用としては4種類に分類できる(神経進歩2000)。即ち急性作用と慢性作用、それぞれにおける前シナプス作用と後シナプス作用である。以下本研究の成果を各分類ごとに示す。 急性作用 前シナプス作用:BDNFは小脳顆粒細胞の培養系において興奮性アミノ酸伝達物質であるグルタミン酸とアスパラギン酸の放出を引き起こすことを示した(Neurosci.Res.,2000)。 またこの作用機構として、BDNF刺激-PLC活性化-細胞内カルシウム上昇-ナトリウム流入-グルタミン酸輸送体の逆回転-グルタミン酸(アスパラギン酸)放出というカスケードを明らかにした(投稿中)。 後シナプス作用:BDNFの刺激によりNMDA受容体のリン酸化とNMDA電流の増加が観察されたが、この細胞内メカニズムとしてチロシンキナーゼであるFynの関与見い出した(SFN発表)。 慢性作用 前シナプス作用:BDNFは小胞性モノアミン輸送体および小胞性アセチルコリン輸送体mRNA発現を上昇させた(投稿準備中)。 後シナプス作用:BDNFはAMPA型グルタミン酸受容体の蛋白レベルを上昇させ、AMPA電流の増加を引き起こすが、同時にこの受容体に結合するPDZ蛋白のレベルも増加させた(投稿準備中)。以上のようにBDNFは中枢ニューロンに幅広いタイムウインドウで作用し、シナプス伝達の調節を行っていることが明らかになった。本研究ではさらにそれらの現象の分子基盤の一端を、とくに前シナプスメカニズムにおいて解明することができた。今後さらにこの研究を展開しシナプス可塑性の解明にせまりたい。
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