研究概要 |
1.マウス神経芽腫NS-20Y細胞において、ガングリオシドGM1は細胞増殖に対する抑制効果(G0/G1期細胞の増加)と、神経突起伸展に対する糖脂質合成阻害剤(PDMP)の抑制作用を打ち消す効果を示す。NS-20Y細胞について各種の条件下で同調培養を試み、細胞周期の進行にともなう細胞表面GM1量の変化をフローサイトメトリーにより解析したが、細胞周期による変動は見られなかった。ただし、無血清培地の培養条件では細胞表面GM1の顕著な減少が起こった。 2.スフィンガニン、セラミドを経てスフィンゴ糖脂質が合成される経路で様々な段階に特異的に作用する阻害剤を用いて、NS-20Y細胞の増殖と細胞表面ガングリオシドGM1の発現に対する効果を検討した。 (1)N-butyldeoxygalactonojirimycin(NB-DGJ)は100〜500μM濃度でGM1を著しく減少させたが、細胞増殖にはまったく影響しなかった。 (2)NB-DGJと同じくグルコシルセラミド合成酵素阻害剤であるPDMP(1-phenyl-2-decanoyl-amino-3-morpholino-1-propanol)も5〜25μMで同程度のGM1の減少を生じたが、細胞増殖も強く抑制した。 (3)セラミドの合成を阻害するfumonisin B1は25μM以上でGM1の大きな減少を引き起こしたが、3-ketosphinganineの合成を阻害するL-cycloserineとβ-chloro-L一alanineでは、25mMでも最大30%程度のGM1の減少に留まった。いずれも細胞増殖を抑制したが、後者2種の効果が特に強かった。 (4)以上の結果からNS-20Y細胞においては、新たに合成されたsphinganineよりも、スフィンゴ脂質が加水分解を受けて生じたsphinganine,sphingosineを再利用する経路の割合が高く、GM1の一部はスフィンゴ糖脂質の部分的な加水分解を経てゴルジ体で再利用されているものと考えられた。
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