アルツハイマー病の原因遺伝子の一つと考えられているアミロイド前駆体蛋白質(以下APP695と略す)のシナプスにおける機能を解析するために研究を行い以下の結果を得た。(1)ラット上頚部交感神経節細胞の初代培養系にAPP695のC末端25残基に対する抗体及びC末端25残基の合成ペプチドを導入すると、シナプス伝達が阻害されるが、C末端側に存在する再取り込みに関連した8残基のシグナルペプチドの導入によっても同様の結果が得られたところから、C末端25残基に対する抗体及び合成ペプチドの導入により生ずるシナプス伝達の阻害は再取り込みシグナルを通して起こる現象であることが認められた。(2)ヒト分裂終了神経細胞(NT-2)にアデノウィルスベクターを用いて、APP695遺伝子を強制発現させることによって生ずる神経毒性について解析した結果、遺伝子導入して48時間後には、免疫組織化学的解析により、神経細胞内に活性型のカスパーゼ-3が検出された。さらに、72時間後にはアポトーシス様の変性像が見られたが、培養液中にカスパーゼ-3阻害剤を添加することにより、変性がかなり抑えられた。この結果は野性型APP695が何らかのメカニズムによりカスパーゼ-3を活性化し、神経細胞のアポトーシスを誘導するものと考えられた。(3)APP695の細胞外領域の機能を明らかにするために、細胞外ほぼ全領域に相当するGST融合蛋白質をリガンドとしてマウス脳抽出液から特異的に結合する蛋白質の探索を行った。さらに、アビジンービオチンの特異的結合能を利用して、ビオチン化ペプチドを用いて同様の実験を行った。その結果、GST融合蛋白質に結合する高分子量を示す複数の蛋白質が見出された。また、ビオチン化ペプチドを用いた実験ではペプチドで溶出される結合蛋白質の一部に、線虫で見出されている、セリン・スレオニンキナーゼ様の蛋白質と同じ部分アミノ酸配列を持つ蛋白質が見出された。
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