研究概要 |
砂ネズミの前脳虚血後に32℃×4時間の低体温を行うと、海馬CA1領域の神経細胞死を防ぐことができる。しかし、1ヶ月経つとCA1細胞の3割程度が死んでしまう。グルタミン酸受容体の一つであるNMDA受容体の免疫組織化学を行ったところ、低体温療法後1週間の時点で海馬錐体細胞の細胞体での染色性が増強し、樹状突起での染色性は逆に減弱していた。NMDA受容体の染色性の増強については、虚血によって引き起こされるグルタミン酸の大量放出によって生じることがすでに報告されている(Heurt eauxら、Brain Res659,1994)。一方、海馬スライスを用いた興奮性シナプス後電位の測定では、低体温療法後に長期増強の抑制が見られた。さらに、低体温療法後の慢性的な神経細胞死は、NMDA受容体の非競合性のアンタゴニストであるMK-801の長期投与により防ぐことができた。8方向迷路学習試験では、細胞死に伴って、学習機能は低下するが、MK-801投与群では低体温後1ヶ月たっても正常コントロール群との有意な差は見られなかった。以上の結果より、NMDA受容体の異常が低体温療法後にも存在し、このことが長期増強の抑制を引き起こし、また、慢性的な細胞死の機序の一つであると考えられる。次年度以降は他のグルタミン酸受容体(AMPA受容体など)についても同様な検討を行う。また、受容体の遺伝子レベルでの異常の有無についても検討する予定である。
|