研究概要 |
初代培養神経細胞のNaポンピアイソフォームの活性制御に対する,タンパク質のリン酸化・脱リン酸化の関与を検討した.培養神経細胞の神経細胞型(α2型とα3型)アイソフォームとα1型アイソフォームの存在量の比は約3:2である.しかし,無処理,無刺激の条件下(basalな状態)では,α2型/α3型Naポンプの活性だけが生理的濃度の細胞外K^+により抑制され,両アイソフォームのイオン輸送活性の比は約2:3であった.一方,細胞をCaMキナーゼIIの阻害薬であるKN-93で処理すると,全体の活性はほとんど変わらず,α2型/α3型とα1型の活性の比が逆転し,存在量の比とほぼ同じになった.以上から,basalな状態では,細胞外のK^+によってα2型/α3型Naポンプが抑制され,CaMキナーゼIIがその抑制に関与すると推定された.一方,細胞をグルタミン酸で刺激すると,α2型/α3型のK^+による抑制が消失し,その活性が顕著に増加した.その結果,活性の比が存在量の比とほぼ同じになり全体の活性が上昇する.この神経細胞の興奮に連関する活性変化と同様の変化が,KN-93で処理した細胞をナトリウムイオノフォアであるモネンシンで刺激することで再現された.したがって,興奮に連関するNaポンプの活性制御は,(1)細胞外K^+による抑制の解除によるα2型/α3型Naポンプの活性化と,(2)細胞内Na^+濃度の上昇によるNaポンプの活性化の二つの機構により起こると推定された.これに対して,細胞をプロテインキナーゼ(PKC)の活性化剤であるホルボールエステル,あるいは,プロテインホスファターゼ(PP1とPP2A)の阻害剤であるオカダ酸で処理すると,両アイソフォームの活性は同程度上昇した.以上の結果から,神経細胞のNaポンプの活性制御に,タンパク質のリン酸化・脱リン酸化が関与することが示唆された.
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