研究概要 |
小脳プルキンエ細胞に特徴的に高発現している神経特異カルシウム結合タンパク質のNVP3について,蛋白化学的性質,細胞内分布などの解析とともに,遺伝子欠損マウスの作製と形態・生理機能の解析を行った. NVP3は,アミノ末端がミリスチン酸修飾されており,1分子当り3分子のCa^<2+>を結合すること,結合定数が10^6程度でミリスチン酸修飾基を有することで結合の協調性を示すこと,ミリスチン酸修飾基を介して細胞膜と可逆的に結合することなどが示された.プルキンエ細胞内では,樹状突起,細胞体,軸索起始部から神経終末部まで,細胞全体に隈無く発現していた.発達に伴う発現変化では,プルキンエ細胞が成熟しシナプス形成を開始する生後14日目頃より細胞体に発現し,成熟を終える28日目頃には3カ月齢の成熟個体と同等の発現を認めた.老化に伴う発現変化では,シナプスの形態・機能マーカーの多くの発現が2カ年齢頃より減少するのに比較して,1カ年齢頃の早期より発現が低下していた.これらのことから,NVP3はプルキンエ細胞のシグナル受容とシグナル伝達の両機能の維持に働いている可能性が示された. 昨年度作製したヘテロ遺伝子欠損マウスの交配から遺伝子欠損マウスを作製した.遺伝子欠損マウスは外観上正常に発育し,繁殖能力,行動リズムなどに変化はなかった.また,運動能力においても通常飼育環境下では著変はなかった.そこで,8週齢遺伝子欠損マウスの小脳・脳幹部についての免疫組織化学染色による光顕レベルの観察では,NVP3の相同タンパク質の代償性の発現増加は認められなかった.光顕レベルの観察では,組織・細胞構築にも変化は認められなかった.今後は,電顕レベルの観察,電気生理学的応答性,伝達物質の放出能,さらには協調運動学習能力などについて検討を加えていく予定である.
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