研究概要 |
Aβに対する脳内の防御機構とAβの沈着から神経細胞死に至る分子機構を明らかにするのが目的である。そこで、Aβが、神経修復に関与するどのような胎児性の遺伝子群を脳に発現させるかを調べた。まず、Aβ1-42(5mM)で、3、16時間処理した培養ニューロンと未処理ニューロンのmRNA発現profileを、1176種のcDNAがスポットされているAtlas rat 1.2 array IIを使い、比較解析した。その結果、Aβ添加3時間後に誘導される遺伝子として43種のmRNAが、Aβ添加16時間後に誘導される遺伝子として49個のmRNAが同定された。次に、ラット胎児(E20日)大脳と成熟ラット(9週令)大脳でのmRNA発現profileを同様に比較解析し、Aβによって誘導される遺伝子群のうち、成熟期よりも胎児期の大脳でより多く発現している遺伝子群を10種類同定した。これらの多くは、神経突起の伸展に関与すると想定されている分子(tau,MAP1Bなど)やシナプス伝達に関与する分子であった。TauとMAP1Bは微小管関連蛋白で、アルツハイマー病脳に出現するneurofibrillary tangle(NFT)の構成成分である。特に、MAP1Bは胎児性抗原であり、軸索や樹状突起の伸長に関与する分子であることから、NFT形成にニューロンからの発芽機構の異常が関与する可能性が考えられる。そして、NFTよりもβアミロイド(Aβ)の沈着の方が先に出現することから、発芽機構の異常はAβの沈着とNFT形成の間におこると考えられる。Aβによって誘導される神経突起の伸展にかかわる分子群が、どのような機構で、アルツハイマー病での異常発芽に関与しているのかを明らかにすることが今後の課題である。
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