アルツハイマー病では、どの遺伝子に異常がおきても、βアミロイド(Aβ)の合成促進や沈着という共通過程を経て、神経細胞が変性脱落する。しかし、痴呆のない老人脳にも多くのAβの沈着が認められることや、Aβの沈着が見られるtransgenic mouseに神経細胞死が認められないことは、ヒトやマウスの脳内にAβ神経毒性に対する防御機構があることを示唆している。そこで、Aβに対する脳内の防御機構とAβの沈着から神経細胞死に至る分子機構を明らかにする目的で、Aβが神経細胞やアストロサイトにどのような遺伝子群を発現させるのか、特に、神経修復に関与すると考えられる胎児性の遺伝子群をAβが誘導させるのかを、macro arrayで系統的に解析した。その結果、Aβは、胎児性の遺伝子群のうち、MAP1B以外にも、ニューロンの突起伸展に関与すると考えられている遺伝子群やシナプス伝達に関与する遺伝子群の発現を誘導することを明らにした。また、Aβによって誘導されるMAP1Bは、N-末端126アミノ酸が欠損したisoformであり、このisoformは、ニューロンを未分化な形態にとどめるが、アポトーシスを促進も抑制もしないこと、それに対し、full-length MAP1Bは、ニューロンの形態を分化させ、アポトーシスを促進することを明らかにした。このことは、ニューロンからの発芽やニューロン死に関与するfull-length MAP1Bの誘導は、Aβによるものではないことを示唆した。
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