我々は、脳内ではミクログリアに特異的に発現するカルシウム結合たんぱく質Iba1を見出し、Iba1の発現が活性化ミクログリアで上昇することなどを報告してきた。今回、我々はIba1の細胞内機能に着目し、Iba1が単量体Gたんぱく質Racのシグナル伝達系で機能すること、アクチン細胞骨格の構造制御を通じて活性化ミクログリアの遊走能・貧食能に関わっていることを明らかとしたので報告する。ミクログリア細胞株MG5をM-CSFで刺激するとアクチン細胞骨格再編成が起こり、膜ラッフルが形成された。この細胞に対し、抗Iba1抗体を用いた免疫細胞染色を行い、Iba1の細胞内局在を調べた。Iba1は膜ラッフルに単量体Gたんぱく質Rac・F-アクチンと共に集積していた。さらに、変異体Iba1を作成し、MG5で発現させた。野生型Iba1を発現させたMG5はM-CSF刺激下に膜ラッフルを形成したのに対し、N末端、C末端欠損変異体Iba1、カルシウム結合領域の変異体Iba1を発現させると、膜ラッフルの形成が抑制された。一方、貧食部位についても同様に調べたところ、ザイモザン取り込み時に形成されるファゴサイティックカップにIba1・Rac・F-アクチンが共存すること、上記Iba1変異体を発現した細胞では貧食能が抑制されることがわかった。また、MG5をM-CSF・ザイモザンで刺激すると不活性型のGDP-Racが活性化型のGTP-Racに転換されることも示された。ドミナントアクティブ型RacV12をMG5に発現させると膜ラッフルが形成されるが、同時に上記Iba1変異体を発現させると、膜ラッフル形成が抑制された。以上の結果はIba1がRacシグナル系に関与してアクチン細胞骨格の機能を調節する分子であることを強く示唆する。
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