ほ乳類のニューロトロフィンには4種類あることが知られており、それぞれのニューロトロフィンが時間的および空間的に異なった作用を担っていると考えられている。私たちは、これまでに確立した高感度酵素免疫測定系を用いて、脳由来神経栄養因子の合成促進剤について検索した。また、ニューロトロフィンの生物活性を阻害する抗体を調整し、これを脳室内投与し、観察される形態学的変化を調べ、脳におけるニューロトロフィンの機能解明を試みた。その結果、以下のことが明らかになった。 1)生後7日齢のラット側脳室にニューロトロフィン-3抗体を投与すると、小脳における顆粒細胞の分裂阻害や細胞死とBergmannグリアの脱落が観察された。この効果は、前者が小葉特異的に観察されるのに対し、後者はすべての小葉で観察された。 2)海馬における脳由来神経栄養因子の合成促進剤の大半は神経細胞死をも誘発したが、リルゾールは細胞死を誘発することなく、脳由来神経栄養因子の合成を促進した。 3)リルゾールの連続投与は、海馬の顆粒細胞の脳由来神経栄養因子を高レベルに保つだけでなく、この栄養因子を介して成体海馬における神経細胞新生を促進することも判明した。
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