本研究の目的は消化管刺激により脳の特定部位で神経伝達物質、特にヒスタミンが放出され、中枢機能を変化させるという仮説を検証し、脳腸相関の物質的基盤を解明することである。まずラットで脳マイクロダイアリシスを行った。大腸伸展刺激によって、海馬のヒスタミンが1.34±0.47pmol/lから4.68±0.58pmol/lに有意に増加した(p<0.05)。この時、高架式十字迷路で検出される不安行動が誘発された。また、ノルアドレナリン遊離を確認し、これらの反応はストレスの鍵物質であるcorticotropin-releasing hormone (CRH)の拮抗薬α-helical CRHならびに選択的CRH-R_1受容体拮抗薬JTC017で抑制された。健常者の下行結腸に大腸伸展刺激を加え、サイクロトロンで合成した核種H_2^<15>O生理食塩水を経静脈的に投与し、positron emission tomography (PET)を行った。次いで、選択的ヒスタミンH_1受容体拮抗薬d-chlorpheniramineを経静脈的に投与し、刺激下の脳PET画像の変化を分析した。大腸伸展刺激により、視床、前帯状回、前頭前野の局所脳血流量増加が認められ、同時に内臓知覚と情動が誘発された。この変化は、d-chlorpheniramine前投与により阻止された。上記反応は過敏性腸症候群(IBS)患者において異常であり、左前頭前野の賦活反応が認められた。大腸拡張刺激による脳腸相関において脳内ヒスタミン・ノルアドレナリンとCRH(特にR_1受容体)の相互作用を証明した。また、その反応はIBS患者の辺縁系で強いことが明らかにした。以上、平成11〜14年度研究費により、動物とヒトの脳腸相関を検討した。脳腸相関異常による病態はヒスタミン・CRH神経伝達の修飾により制御できることが示唆された。
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