研究概要 |
延髄孤束核(NTS)は、脳幹におけるいろいろな脳神経核の中でも、生体内の諸器官からの情報が集約的にインプットされる"gate"になっている点で特異的であり、かつ興味ある脳神経核である。本研究は、ニューロン活動に伴う内因性の光学的変化から脳皮質活動を光学的に計測する「内因性光学イメージング法」を"まるごと"のラット延髄孤束核に適用し、舌咽神経や迷走神経を通して伝えられた心血管系と呼吸器系からの入力情報が、孤束核内においてどのような機構により処理されているのかを、時空間的にシステマティックな側面から解析することを目的とする。 (1)迷走神経関連核のイメージング:実験対象としてはadultのWistar ratを用いた。ウレタン麻酔下に、頚部で左右迷走神経本幹を露出し、末梢側を切断して刺激用電極を中枢側に装着した。人工呼吸下に脳幹背側部分の頭蓋骨、小脳を除去して脳幹を露出し、測定用チェンバーを歯科用セメントで固定して、その中をシリコンオイルで充たした。光学計測には、リアルタイム光量差差分増幅装置(IMAGER 2001,Optical Imaging Inc.,Israel)を用いた。直流安定化電源により駆動した250Wのタングステン・ハロゲンランプの光を、干渉フィルター(605±5nm)を通して準単色光にした後、光ファイバーを用いて脳幹部に照射し、slow scan CCD cameraを用いて、5秒間に8枚の画像を取得した。刺激に伴う内因性光学シグナルを反射光の変化として測定し、その変化分を測定開始時の反射光に対する比(ΔR/R)として表示してイメージングを行った。迷走神経を電気刺激(20Hz/1sec)すると、605nmの準単色光照射による測定では、刺激により内因性光学シグナルの大きさは増加(反射光の減少)し、刺激開始後約1.5秒でそのピークに達した。解剖学的位置との比較から、記録された応答は主に孤束核に対応すると考えられた。複数のratで同様の実験を行うと、応答領域は血管の走行とは無関係で、obexに対してほぼ同一の位置に出現することがわかった。しかしながら、応答領域の大きさは一様ではなく、個体差があることが明らかとなった(animal-to-animal variations)。 (2)刺激条件と応答の関係:次に、血圧をモニターしながら刺激の強度/周波数を変えて内因性光学シグナルの画像化を行い、その変動を調べた。刺激の周波数を一定(20Hz)にした条件下で、刺激強度を変えた時に得られたイメージ画像と血圧の変化を比較し、(1)刺激強度を上げるにしたがって、応答領域は刺激側の孤束核がら交連部、さらには反対側の孤束核に広がっていくこと、(2)それに伴って迷走神経刺激による血圧の低下が大きくなっていくこと、(3)同じ血圧の低下が起こる刺激条件でも、応答領域は同じではなくtrialごとに差が見られること(trial-to-trial variations)、が明らかとなった。一方、刺激強度を一定にした条件下で、刺激の周波数を変えて実験を行うと、刺激の周波数を上げるにしたがって応答領域が交連部から吻側方向に徐々に拡がっていくことが明らかとなった。これは、孤束核に投射する求心性線維のタイプの違いを反映していると考えられる。
|