聴覚学習には聴覚野の可塑性が重要と考えられているが、可塑性として長期増強(LTP)とともに長期抑圧(LTD)が重要な役割を果たしていると思われる。本研究では成熟ラット聴覚野スライス標本を用いLTDにつき以下の点を明らかにした。 1)電場電位および錘体細胞EPSPのLTD III層の電場電位、およびperforated patch記録による錘体細胞EPSPはIV層低頻度刺激によりLTDを起こした。これらのLTDはNMDAレセプター(NMDAR)の阻害剤であるD-APVと代謝調節型グルタミン酸受容体(mGluR)の阻害剤であるMCPGの同時投与でブロックされ、LTD誘発にNMDARとmGluRが関与していることが判った。 2) 入力線維とグルタミン酸受容体 聴覚野III層錐体細胞への入力には視床内側膝状体からの線維の他、対側聴覚野、連合野など他皮質からの線維、および皮質内錐体細胞軸索側枝などがある。これら入力シナプスの違いによりLTDに関与するグルタミン酸受容体が違うか、作成スライスの方向を工夫し検討した。その結果、LTDは内側膝状体からのシナプスではmGluRを介して、他皮質からの入力シナプスや皮質内水平結合シナプスではNMDARを介して起こることが判った。 3) LTDに関与するmGluRのサブタイプ groupI(mGluR1、mGluR5)の阻害剤であるLAP3(300μM)でLTDはブロックされたが、mGluR1に選択の高い阻害剤であるAIDA(300μM)でブロックされなかったことから、mGluR5が関与していることが示唆された。
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