1.前年度は、アセチルコリン細胞の起始核の一つである脚橋被蓋核が、ショ糖などの嗜好性味溶液の摂取行動に促進的な役割を果たすことを、ラットを対象とした行動学的実験により明らかにした。本年度は、この結果をもとに、脚橋被蓋核へのどの種の入力が、味覚行動の調節に関与しているかを、破壊法を用いた行動学的実験と神経解剖学的実験により検討した。 2.脚橋被蓋核の線維連絡を、逆行性あるいは順行性トレーサー注入により検索したところ、脳内報酬系の一部に位置づけられている腹側淡蒼球と、双方向性の線維連絡があることが判明した。また、脚橋被蓋核・腹側淡蒼球ともに、味覚第2次中継核である結合腕傍核と線維連絡をもつことがわかった。 3.前年度試みた腹側淡蒼球の電気破壊は、味溶液摂取行動に有意な影響を及ぼさなかったが、上述の解剖学的知見を考慮して、さらに腹側淡蒼球を広範囲にイボテン酸で破壊し、味覚行動への影響を調べたところ、対照動物が好んで摂取する特定濃度のショ糖、サッカリン、食塩、各溶液の摂取量が、破壊動物では対照動物より有意に少ないことがわかった。このほかの酸味や苦味などの味溶液に対する嗜好性には、破壊群と対照群の差は見られなかった。また、味覚嗜好性増強効果のあるベンゾジアゼピン作動薬を投与した場合、対照群ではショ糖溶液の摂取量が有意に増加したのに対し、破壊群ではコントロールとして生理食塩水を投与した場合と同レベルの摂取量しか示さなかった。このように、腹側淡蒼球の破壊効果は、すでに報告した脚橋被蓋核や腹側被蓋野の破壊効果とほぼ同様なものであり、これらの部位間を流れる神経情報が、嗜好性味溶液の摂取に重要な役割を果たしていることが示唆された。今後は、この神経回路の中で、アセチルコリンがいかに機能しているかを解明していく予定である。
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