研究概要 |
海馬では成体でも顆粒細胞の新生が続いている.したがって,海馬では,一生の間ニューロンの新生によって,神経回路が付加され続けていると考えられる.この発達中の顆粒細胞の軸索(苔状線維)には、長鎖のポリシアル酸(PSA)が結合した神経細胞接着分子(PSA-NCAM)が特異的に発現している。このことは、PSA-NCAMが苔状線維の発達に重要であることを示唆している。発達中の苔状線維から酵素(endoN)によってPSAを除去すると、異所性シナプスが錐体細胞層内に多数形成される。本研究では、この異所性シナプスの形成機構を調べることを目的としている。生後ラット又はマウスの脳を4%パラフォルムアルデヒドで固定し、海馬スライスを作製する。このスライスの歯状回門付近に蛍光色素DiIを付着させることにより苔状線維を標識した。スライスからビブラトーム切片を作製後、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。また、さらに蛍光標識した苔状線維をphotoconversion法により、DAB(ジアミノベンチジン)反応に置換し、電子顕微鏡で観察した.その結果,正常な動物及びendoN処理群の両者で,生後2週間頃に、多数の苔状線維側枝が錐体細胞層内に侵入することが明らかになった.この側枝には、大小さまざまなボタンが観察された。生後1カ月の動物では,その側枝の数が減少した。この一時的な側枝を電子顕微鏡で観察した結果、この側枝が錐体細胞とシナプス及び非シナプス様の細胞結合を形成することを見いだした.このことは,endoNの投与によって形成された異所性のシナプスは、この一時的に侵入する側枝が退縮せずに錐体細胞層内にシナプスを形成した結果であることを示唆している.
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