研究概要 |
海馬における記憶・学習の基盤は、神経活動に依存的な海馬の可塑性にあると考えられている。本研究では、海馬神経回路のうち、顆粒細胞の軸索(苔状線維)と錐体細胞の樹状突起との間に形成されるシナプス結合に着目し、その形成過程で起こる可塑的な現象を解明することを目的としている。今までの研究で、苔状線維の発達期には、一時的に苔状線維の側枝が,錐体細胞層内に侵入することを示唆する結果を得た。本年度の研究では、この側枝が実際に錐体細胞層に侵入し、退縮する様子を共焦点顕微鏡と培養装置を組み合わせて、経時的に観察した。生後5-7日目のラットから海馬を取り出し350μmの切片を作成した。培養には,35mmプラスチックdishの底に穴をあけ,カバーガラスを張り付けたものを用いた。このカバーグラス上に海馬切片を載せ,完全無血清培地であるNeurobasal+B27を少量加えた。その後,海馬切片上の苔状線維をDiIによってラベルし,一晩培養した。翌日,温度と炭酸ガス濃度をコントロールできるチェンバーを共焦点レーザー顕微鏡のステージに設置し、その中に培養海馬切片を置いた。このような状態で少なくとも2-3時間の観察が可能であった。その結果,錐体細胞層側に伸びた苔状線維側枝が,伸長又は退縮する様子を観察できた。この場合,側枝上に存在するボタンが移動することも明らかになった。以上の観察結果は,苔状線維の発達時期に,一時的に側枝が錐体細胞層に侵入し,その後退縮するとの考えを支持する。また,その過程で,側枝上に存在するシナプスボタンに変化が起こることも示唆された。
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