本研究課題は立体視における単眼性の奥行手掛かりの寄与を知覚レベルと神経細胞レベルの双方より探ることを目的とする。そのために以下にあげる三つの実験を計画した。 (1)サルに奥行きの弁別課題を学習させ、サルの奥行知覚における単眼性の奥行指標の寄与を行動実験から探る。(2)弁別課題を遂行中のサルの初期視覚野より電気記録を行い単眼性指標が加わることにより神経細胞の奥行に対する反応選択性がどのように影響されるかを調べる。(3)輪郭の形状や遮蔽等の単眼性指標の表現の神経メカニズムを探るために輪郭線の折れ曲がりや分岐、面の接合部に対する反応選択性を注視課題を遂行中のサルの初期視覚野より電気記録を行う。一昨年度から本年度にわたり行動課題の開発、訓練装置の整備、奥行弁別課題によるサルの訓練を行った。2頭のサルを訓練したが一頭は奥行弁別課題の習熟ができなかったので除外した。2頭目は奥行弁別を行うところまで訓練した。しかし課題習熟中の事故により斜視状態となり、両眼立体視に障害を生じたのでそれ以上の研究実施を断念した。これと並行して本年度は注視課題を遂行中のサルの第一次視覚野、第二次視覚野より細胞外記録を行った。輪郭線の折れ曲がりや分岐に対する神経細胞の反応選択性を調べるために、線刺激の折れ曲がりや分岐を受容野の中心部分に呈示した。反応選択性の起源を調べるために、刺激図形を中心部分や末端部分、あるいは各直線部分に分解して反応選択性の変化を調べた。第一次視覚野の神経細胞は最適方位の直線に対して強い反応を示したが、第二次視覚野の神経細胞は輪郭線の折れ曲がりや分岐に対して緩やかな反応選択性を示した。第二次視覚野ではある特定の角度の折れ曲がりに対して選択的な抑制を示すものが記録された。このことは第二次視覚野が輪郭線の折れ曲がりや分岐を検出する最初のステップであることを示唆する。
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