本研究課題は立体視における単眼性の奥行手掛かりの寄与を知覚レベルと神経細胞レベルの双方より探ることを目的とし、そのためにサルの奥行知覚における単眼性の奥行指標の寄与を行動実験および電気記録により探ることを計画した。初年度より奥行弁別による行動課題の開発、訓練記録装置の整備、開発した課題によるサルの訓練を行った。二頭のサルを訓練したが一頭は奥行弁別課題の習熟ができず、もう一頭は課題習熟中の事故により斜視状態となり両眼立体視に障害を生じたので除外した。訓練に一年以上要するため新規動物による研究期間内での研究完遂が見込めずそれ以上の実施を断念した。一方これと並行して輪郭の形状や遮蔽等の単眼性指標の表現の神経メカニズムを探るために輪郭線の折れ曲がりや分岐、面の接合部に対する反応選択性をサルの初期視覚野で調べた。訓練記録用に整備した実験セットを利用して注視課題を遂行中の二頭のサルの第二次視覚野のII/III層より細胞外記録を行った。刺激セットは2〜3本の直線成分の組み合わせにより作成し、受容野を横断しかつその中央部分に折れ曲がりや分岐を呈示した。第一次視覚野と異なり、第二次視覚野の神経細胞は受容野を横切る輪郭線刺激に対してもよく反応するものが多く、輪郭線の折れ曲がりや分岐に対して緩やかな反応選択性を示した。また、ある特定の折れ曲がりに対して選択的に反応する細胞も少数ながら存在した。多くの場合、折れ曲がりに対する選択性は1〜2方向の直線成分に対する興奮性反応とある特定の方向の直線成分に対する抑制性反応との組み合わせにより説明することができた。抑制性作用は線成分の傾きだけではなく線成分が受容野のどちら側にあるかにも依存することから受容野周囲の不均一な抑制性入力によると考えられる。これらの結果は第二次視覚野が輪郭線の折れ曲がりや分岐を検出する最初のステップであることを示唆している。
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