神経可塑性変化の長期維持や記憶の固定化には新たなタンパク質の合成が必要であると考えられているが、どのような分子がどのように関わるのかについては明らかでない。本研究では脳の特定部位(扁桃体)の電気刺激をくり返し与えることによって発展してくるキンドリングけいれん後の脳で発現増加するcDNAクローンとして得られたCRE転写調節因子ICER (inducible cAMP early repressor)が扁桃体刺激後およびマウスの学習行動の獲得後の脳でどのように増加するかを特異的プライマーを用いたRT-PCR法により検討した。その結果、(1)ICER mRNAの増加はキンドリングけいれんの1時間後までに検出され3時間後でも有意であった。その後緩やかに減少し24時間後にはコントロールレベルに戻った。(2) ICER mRNAめ増加はキンドリング癸展初期の比較的軽度のけいれん後にも有意に認められた。(3)NMDA受容体阻害剤MK-801の投与により、キンドリングけいれんの発展およびc-fos mRNAの発現は抑制されるが、ICER mRNAの発現増加は抑えられなかった。(4)古典的条件づけしたマウスの条件反応の1時間後にICER mRNAの発現増加が扁桃体で認められた。したがって、ICER mRNAは電気刺激による神経活動の賦活や動物の学習行動時に脳内で発現制御されていることが示された。ICERは一般に負の転写調節因子としてはたらくと考えられており、キンドリングけいれん準備性の獲得や学習行動の獲得に必要な遺伝子の発現抑制に重要な役割を持つ可能性がある。
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