本プロジェクトでは、大脳前頭前野からのトップダウン的な認知情報処理に携わる神経回路(Hasegawa et al. 1998)の実体についてニューロン活動から行動レベルにいたる一貢した理解を目標とする。このために、ニホンザルに認知記憶課題を遂行させ、機能的、磁気共鳴画像(fMRI)法による活性化実験、fMRIの活性化地図を参照してGABAアゴニスト微量注入をおこなう可逆的不活化実験および微小電極法による単一神経活動記録実験、を並行して進めている。 側頭葉からの単一神経活動記録により、視覚入力を受けない大脳半球から記憶検索するときに下部側頭葉連合野の単一神経活動が前頭前野からのトップダウン的信号によって誘導されることが判った(Tomita et al. 1999)。また、眼球運動課題遂行中に前頭前野から単一神経細胞の活動を記録した。遅延期間中に眼球運動目標の転換を指示することにより、前頭葉の神経細胞は直接的な視覚入力がなくとも、認知行動的に必要な記憶情報を保持し得ることがわかった(Fukushima et al. 2000)。 また、1.5Tおよび4.7T超伝導磁石を用い、サルのfMRI実験を行った。1.5Tでは、触覚刺激で一次・二次体性感覚野に体部位局在を反映した活性化地図が同定された(Hayashi et al. 1999)。さらに4.7Tのシステムを構築し、覚醒下のニホンザルにおいて眼球運動記憶課題遂行中の脳活動を計測した。両側前頭葉の前頭眼野および背側運動前野周辺領域、補足眼野、視覚関連領野において賦活領域が検出された(Hasegawa et al. 2001)。今後さらに連想記憶課題等の認知課題における賦活化実験を行い、不活性化実験・電気生理学的実験を進めてゆく予定である。
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