研究概要 |
本研究の目的は,海馬体ニューロンの場所応答性に対する動物の移動様式や行動課題の空間認識要求性の影響,および,海馬体ニューロンの場所応答性の動物種差(サルとラット間)などを明らかにすることである.前年度は,自己の居場所を認識する必要のある課題を遂行中のサルの海馬体および海馬傍回からニューロン活動を記録し,1)自己の居場所を認知している時だけ場所応答を示すニューロンのあること,および,2)これらニューロンは,サルが環境内を受動的に移動させられたときには場所応答性を失なうことを報告した。そこで今年度は,この知見がラットにも当てはまるかどうか調べるため,われわれが現有しているラット用の場所学習・記憶行動解析システムを用い,ラットが,自由行動下で自己の居場所を認識する必要のある課題を遂行している時,および拘束下でコンピュータ制御位置移動装置により受動的に移動させられている時に海馬体からニューロン活動を記録し,この2条件間で応答性を比較・解析した.総数16個の場所細胞(環境内のある特定の場所にラットが来ると放電頻度が増加するニューロン)を記録したが,1)その半数(8個)が自己の居場所を認知している時だけ場所応答を示すこと,および,2)そのほとんど(15個)では,ラットが拘束下で位置移動装置により受動的に移動させられると場所応答性を失なうことがわかった.以上より,前年度のサルの研究で得られた「海馬体ニューロンの場所応答には,動物が環境内の空間的な手掛かり刺激を認識して進行方向を自ら決定し能動的に移動することが重要である」との結論はラットにも当てはまることが明らかとなった。現在は、本研究テーマにおける第3(最終)の申請課題事項,すなわち,自由行動下サルにおける海馬体ニューロンの場所応答性に関する研究の準備(サルのトレーニングとデータ解析システム作製)を行っている最中であり,来年度はこの研究を重点的に行う予定である.
|