研究概要 |
本研究の目的は,海馬体ニューロンの場所応答に対する動物の移動様式や行動課題の空間認識要求の影響,および,海馬体ニューロンの場所応答の動物種差(サルとラット)を明らかにすることである.平成11年度には,自己の居場所を認識する必要のある課題を遂行中のサルの海馬体と海馬傍回からニューロン活動を記録し,1.自己の居場所を認知している時だけ場所応答するニューロンのあること,および,2.これらニューロンは,サルが環境内を受動的に移動させられたときには場所応答を失うことを報告した。また平成12年度には,ラットが,自由行動下で自己の居場所を認識する必要のある課題を遂行している時,および,拘束下で位置移動装置により受動的に移動させられている時に海馬体からニューロン活動を記録し,1.記録した約半数のニューロンが自己の居場所を認知している時だけ場所応答すること,および,2.記録した殆どのニューロンでは,ラットが拘束下で受動的に移動させられると場所応答を失うことを明らかにした.さらに平成13年度は,サルを用いて,実験室内を自由に歩き回ることを訓練し,海馬体内に脳波用電極とニューロン活動記録用電極を慢性的に埋め込んで,これら神経活動を同時記録した.その結果,サルでも,自由行動下で歩行を開始すると一過性に周期性徐波が出現するが,モンキーチェアに拘束された状態で同じ軌跡を移動させられても周期性徐波は出現しないことを明らかにした(ニューロン活動に関しては,これまで5個のニューロンから単一活動が記録できているが,さらにデータを集めニューロン集団としての振る舞いを解析する予定である).以上の結果より,霊長類であるサルにおいても,げっ歯類であるラットにおいても,海馬体ニューロンの場所応答には,動物が環境内の空間的な手掛かり刺激を認知して進行方向を自ら決定し能動的に移動することが重要であるとの結論に至った.
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