前脳基底核にドーパミン性線維を投射する腹側被蓋野のドーパミン性ニューロンは、大脳皮質、脳幹等からグルタミン酸性線維の投射を受け、この入力により発火様式が調節されている。今年度の本研究では、ラット脳から作成したスライス標本にホールセルパッチクランプ法を適用して、腹側被蓋野のドーパミン性ニューロンに入力するnon-NMDAグルタミン酸性シナプス伝達に対するドーパミンの修飾作用を解析した。 ドーパミン性ニューロンからホールセル記録を行ない、抑制性シナプス伝達およびNMDA性伝達を薬理学的に遮断した状態で記録ニューロン近傍に電気刺激を与えてシナプス電流を誘発した。このシナプス電流は外液中に投与したCNQXによって遮断されたことから、non-NMDA性興奮性シナプス後電流(EPSCs)と考えられる。外液中に投与したドーパミンは、誘発したEPSCを濃度依存的に抑制し、IC50値は16μMであった。ドーパミンD_2タイプ受容体アゴニストは、EPSCに対してドーパミンと同様の作用を示したが、D_1タイプ受容体アゴニストは効果を顕さなかった。また、ドーパミンの抑制効果はD_2タイプ受容体アンタゴニストにより拮抗されたが、D_1タイプ受容体アンタゴニストは拮抗作用を示さなかった。ドーパミンは、テトロドトキシン存在下に記録される自発性興奮性微少シナプス後電流の振幅には影響を与えずに、その頻度を減少させ、この作用は、外液中のカルシウムイオン濃度に依存的であった。 以上の実験結果から、腹側被蓋野のドーパミン性ニューロンに入力するグルタミン酸性線維の終末にはD_2タイプ受容体が存在し、これを活性化することによりシナプス前終末へのカルシウム流入が阻害され、グルタミン酸遊離が抑制されると考えられる。 本研究成果は、Journal of Physiology 523巻1号163-173頁(2000年)に公表した。
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