モルモットはよく発達した聴覚をもつが、多彩な鳴き声を出す動物でもある。例えば、仲間から隔離するとセパレーション・コールを出して仲間同士の連絡をとろうとするし、オスがメスに求愛行動する際にはメーテイング・コールを出して音声コミニュケーションをしている。セパレーション・コールやメーティング・コールといったモルモットの種特異的な音声は、ウレタン麻酔下において中脳水道周辺灰白質(periaqueductal gray;以下PAGと略す)を微小電気刺激することによっても誘発することができた。それらの音声を誘発できる部位はPAG内で分かれていた。形態学的研究からセパレーション・コールを誘発する部位は前帯状回腹側部より強い投射を受けているのに対し、メーティング・コールを誘発する部位は内側視束前野を中心とした視床下部から強い投射を受けていることが判明した。前帯状回腹側部を電気刺激した場合にもセパレーション・コールを誘発できた。この前帯状回腹側部刺激による発声はグルタミン酸受容体ブロッカー投与により消失することから、前帯状回腹側部刺激による発声はPAGを介することがわかった。ノシセプチンは、ミュー、デルタ、カッパに次ぐ第4のオピオイド受容体のリガンドとして発見された物質であるが、痛覚過敏を引き起こすことや食欲・学習・聴覚などに対して多彩な作用があることがわかっている。またノシセプチン受容体はPAGに高密度に分布しているのでノシセプチンをPAGに注入したところ、前帯状回腹側部刺激による発声は著しく抑制されることが観察された。以上の結果より、セパレーション・コールを生成するために前帯状回腹側部からPAGへのグルタミン酸作働性投射が基本的な回路として必要なこと、そしてノシセプチンなどのオピオイドがPAGにおいて強力な抑制性修飾物質として発声の発現調節に重要であることが判明した。
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