研究概要 |
暗闇飼育(DR)がマウスの第一次視覚野における経験に依存した可塑性に及ぼす影響を3つの異なる観点から調べた.はじめに単一神経細胞記録法を用いて、マウスの眼優位可塑性が他の動物のようにDRにより遅延するかどうかを、正常な視体験をした(LR)群とDR群の視覚野両眼性細胞領域の眼優位性を比較することで検討した.動物は記録の4日前に単眼を遮蔽し、可塑性のレベルは眼優位ヒストグラムを作成後Contralateral bias index(CBI)を求めて評価した.その結果、LRグループでは感受性期にのみ(P22-31)単眼遮蔽の効果が得られるのに対し、DR群では成熟後(P60)もその効果が認められた[DR,CBI=0.54±0.03,n=5;LR,0.75±0.0l,n=5].そこで次に、暗闇飼育後のマウスVCのシナプス前終末の成熟度を調べるために、Short-term depression(STD)形成に注目した.成熟したLR群の視覚野スライスでは1-50Hzの頻回刺激をIV層に30発与えるとII/III層の神経細胞群から誘発される電場電位は一過性に減少し、通常のテスト刺激頻度に戻した直後に増大する.しかし、DR群においては発達初期(P22)のLR群同様、成熟したLR群より強いSTDの形成と頻回刺激直後の増大の消失が認められた.この結果は、電位感受性色素を用い視覚野の局所回路の神経興奮伝播の時空間パターンを光学的に記録した結果と一致した.現在、DR群を光に暴露した際のSTDや、DR群のLTPついての検討を始めた.最後に、LR群で感受性期に認められる神経伝達アミノ酸GlutamateからGABAへの代謝亢進がDRの成熟動物でも認められたことを合わせて考えると、DRした成熟動物の視覚野内の神経回路網はネコなどの他の動物同様可塑的な状態を保ち続けていると考えられる.
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