生物の老化のメカニズムの2大仮説として酸化ストレス説と体細胞変異蓄積説が提唱されている。8-oxoguanine(8-OHdG)はDNAの酸化ストレス傷害のうち最も多く形成される異常塩基である。また8-OHdGは変異原性が高く、酸化ストレス説と体細胞変異蓄積説の双方に関わりを持つものとして注目される。我々はマウスにおける8-OHdG除去修復酵素である8-oxoguanine DNA glycosylase(OGG1)に関する研究から以下の知見を得た。 いくつかの近交系マウスはOGG1内に自然突然変異によるR304W、またはR336Hアミノ酸置換、あるいはその双方を持っていた。変異を持つマウスにはAKR/Jにおける白血病、SJL/Jにおけるreticulum cell sarcoma、NZB/Nにおける自己免疫性貧血のように重篤な疾患を自然発症するものがあり、これらはいずれも短寿命であった。促進老化・短寿命のモデルであるSenescence-Accelerated Mouse (SAM)系マウスにもこれらの変異が見い出された。特にR304W異変は促進老化を示す全9系統のSAMP系マウスには認められたが、その正常コントロール系統であるSAMR系マウスには全5系統で認められなかったことより、促進老化への関与が疑われた。 R304W置換を持つSAMP1、SAMP7、NZB/N系マウスの肝臓、脳ホモジネート中にはOGG1活性が全く認められず、R304W置換は酵素活性を喪失させることが確認された。また、COS細胞内で強制発現されたR336H置換を持つGFP/OGG1-R336Hは核への集積が認められず、R336H置換は核移行シグナルの喪失の原因となっていることが確認され、2カ所のアミノ酸置換ともに正常なOGG1機能を喪失させていることが確認された。
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