研究課題
病原体と媒介蚊の親和性を分子レベルで解析する手法として、組換え蚊の開発を行っている。組換え蚊の作製に際しては、(1)トランスポゾンの選択、(2)遺伝子の導入法、(3)ベクターの構築、(4)発現個体の選択方法、(5)蚊のどの部位になにを発現させるか、などを考慮する必要がある。我々は、(1)と(2)について、蚊のゲノム中のマリナー遺伝子の有無、およびhobo遺伝子を蚊の卵に注入した際の孵化状況などを検討した。1.マリナー遺伝子は、昆虫だけでなくヒドラ、線虫、カエル、人間など極めて多くの種で保存されているトランスポゾンである。mariner遺伝子の転移酵素の保存領域をprimerとして、蚊のゲノムDNAに対するPCR産物の有無を検討したところ、ヤブカで増幅産物が得られた。しかし、ハマダラカやアカイエカ類では認められなかった。マリナー遺伝子の5'と3'末端は反復逆配列(inversed terminal repeat:ITR)と呼ばれる回文構造の配列をしている。この両末端部分の保存領域をprimerとして、マリナー全長の増幅を試みたところ、ヤブカのみならず、ハマダラカの中にも増幅する蚊種が認められた。これらの結果から、ヤブカではトランスポゾンとしてマリナーが働いているが、増幅の認められた他の蚊種では、機能的にマリナーが働いていないことが推察される。2.トランスポゾンの一種であるホーボ遺伝子のDNAおよびhelperであるtransposaseのDNA溶液の混合物を、90分経過後のヤカブ産下卵に注入して、その後の孵化率を観察した。その結果、注入処理した卵の内約39%が孵化した。ちなみに、対照区は70%の孵化率であった。今後の研究課題として、ベクターの構築と蚊体内での外来遺伝子の発現が検討される。
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