研究概要 |
これまでの実験から、わが国で確立されているスンクスン3ライン(SUN, EDSおよびNag)のうちEDSラインのみヘリコバクター("Helicobacter suncus")に感染していないことが確かめられた。本実験ではEDSラインに"Helicobacter suncus"を実験感染させ、胃内定着性、胃炎の有無および炎症細胞の種類を特定した。さらに、ヘリコバクターによって胃炎が観察されたスンクスの胃からそれぞれcDNAライブラリーを構築し、胃炎関連遺伝子のクローニングを試みた。 EDSライン2匹に2×10^9コの"Helicobacter suncus"を、2匹にコントロールとしてPBS(0.1ml)を経口投与、9ヶ月後剖検し、胃内菌数および胃病変の有無を調べた。菌投与群からは2-4×10^4/胃の菌が分離されたが、コントロール群からは菌は分離されなかった。投与群の胃では単核細胞を主体とする胃炎が胃の噴門部から幽門部にかけて観察されたが、コントロール群からは病変がみられなかった。 ヘリコバクターによって胃炎が観察されたスンクスの胃から構築されたcDNAライブラリー31クローンのうち10クローンは胃炎が観察された胃で強く発現がみられたが、胃炎の観察されていない胃においては発現がみられたかった。この10クローンを既知の塩基配列と比較したところSorex araneus clone Sar4SA (GenBank accession No.AF195925),Sorex araneus clone Sar2S(AF195923)と70%以上のホモロジーがあった。 今回の実験感染の結果および前回の自然感染動物の胃組織観察から、スンクスの胃内ではヘリコバクターの感染防御に単核球が関わっていることが強く示唆された。また、胃炎関連遺伝子と思われるクローンがいくつか得られたが、今後これらの機能解析を行うことによってより詳細な炎症関連遺伝子の働きが明らかになると思われた。
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