研究概要 |
我々の施設で維持されているすべてのスンクス(SUNライン)の胃内からヘリコバクター属菌を分離した。、これらスンクスの胃では単核細胞を主体とした胃炎が観察され、本ヘリコバクター("Helicobacter suncus")がスンクス固有の病原体である可能性が示唆された。本実験では、スンクスの胃内免疫機構の解析を目的としてこの"Helicobacter suncus"(JCM11459)を利用し、以下の実験を行った。1)"Helicobacter suncus"自然感染スンクスに抗生物質を投与することによって、除菌した後、本菌を再感染させ、病変観察。2)疫学調査による"Helicobacter suncus"に感染していないスンクスの選抜と、胃病理組織の観察。3)"Helicobacter suncus"に感染していないスンクスへの本菌の感染と胃病理組織の観察。4)感染動物の胃からのcDNAライブラリー構築と、スンクスの胃炎関連遺伝子のクローニング。 その結果、"H. suncus"自然感染スンクスおよび再感染スンクスの胃では単核球主体の胃炎が観察されたが好中球の浸潤はわずかであること、疫学調査をおこなったスンクスン3ライン(SUN, EDSおよびNag)のうちEDSラインのみ"Helicobacter suncus"に感染していないこと、"Helicobacter suncus"を経口投与されたこのEDSラインでは、菌が再分離されたが、コントロール群からは菌は分離されず、投与群の胃では単核細胞を主体とする胃炎が胃の噴門部から幽門部にかけて観察されたが、コントロール群からは病変がみられなかったことが明らかになった。また、構築されたcDNAライブラリーの31クローンのうち10クローンは胃炎が観察された胃のみで強く発現がみられた。この10クローンを既知の塩基配列と比較したところSorex araneus clone Sar4SA(GenBank accession No. AF195925), Sorex araneus clone Sar2S(AF195923)と70%以上のホモロジーがあった。 今回の結果から、スンクスの胃内ではヘリコバクターの感染防御に単核球が関わっていることが強く示唆された。また、胃炎関連遺伝子と思われるクローンがいくつか得られたが、今後これらの機能解析を行うことによって、スンクスの胃内免疫機構の詳細が明らかになると思われる。
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