研究概要 |
粥状動脈硬化症やその初期病変である内膜肥厚が循環系に限局的に発症する流体力学的メカニズムを解明するために,血管の実形状を計測するシステムを開発し,実際に肥厚が生じた血管内の血流および肥厚性血管病の誘因物質である低密度リポ蛋白(LDL)の輸送解析を行った. 1.3次元血管形状計測システムの開発 1次元変位センサを取付けた3軸の並進ステージと試料を載せた回転ステージの位置をコンピュータで制御することにより,測定に適した試料との距離を保ちながら変位センサを上下・左右方向に走査させ,血管内腔を型取りした樹脂の3次元形状を高精度に計測するシステムを開発した. 2.バイパス手術を施したイヌ総頸動脈の実形状計測 イヌの片方の総頸動脈を摘出し,その両端をもう一方の総頸動脈の側部に吻合するバイパス手術を行った.3ヵ月後,血管に樹脂を注入して血管の鋳型を作製し,その形状を開発したシステムで計測した.その結果,CFD解析には十分な精度でバイパス血管の実形状を得ることができた. 3.狭窄を施した家兎総頸動脈内の物質輸送解析 家兎総頸動脈に縫合糸を緩く巻きつけて狭窄を施す手術を行った.一定期間飼育後,血管に樹脂を注入し,血管の鋳型と血管壁の組織標本を作製した.樹脂鋳型から血管の実形状モデルを作成してLDLの輸送計算を行い,組織標本から血管軸方向に沿った内膜の厚さを測定した.その結果,狭窄の頂点から約1mm下流でLDLの壁面濃度が流入部に比べ28%も局所的に高くなり,その部位は組織標本から得られた内膜肥厚が生じていた部位にほぼ対応することがわかった。また,LDLの壁面濃度と内膜の厚さとの関係を調べた結果,LDLの壁面濃度が高くなっている所ほど内膜が厚くなっている傾向があることがわかった.
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