研究概要 |
粥状動脈硬化症やその初期病変である内膜肥厚が循環系に限局的に発症する流体力学的メカニズムを解明するために,実際に病変を起こした種々の血管に対して,前年度に開発した形状計測システムを用いて血管の実形状を計測し,それに基づく流れおよび肥厚性血管病を誘発する低密度リポ蛋白質(LDL)の輸送の解析を行うとともに,同一試料に対して血管壁の組織標本の作製および肥厚部位の計測を行い,肥厚部位と流れおよび物質輸送との直接的な関係について検討し,以下の研究成果が得られた. 1.分岐を含む血管の内腔形状から効率的にCFD用のメッシュモデルを構築する方法を考案し,それを剖検により採取したヒト冠動脈の分岐部の血管に適用し,病理組織標本から得た動脈硬化の病変部位と直接的に対応が可能な実形状モデルを構築した. 2.人為的に狭窄を施した家兎総頸動脈に対して,内膜肥厚が生じた部位とその壁近傍の流れおよびLDLの壁面濃度との関係について調べた.その結果,狭窄により流れが乱され,壁近傍の流れが合流する低壁せん断応力域でLDLの壁面濃度が局所的に高くなり,そのような部位で内膜肥厚が生じていることがわかった. 3.バイパス手術を施したイヌ総頚動脈について,低壁せん断応力域に好発すると言われている吻合部内膜肥厚の発症部位と流れおよびLDLの壁面濃度との関係について調べた.その結果,病変が生じていた部位において,単純化された形状モデルを用いた解析では示すことができない壁近傍の複雑な流れの構造を明らかにし,それが個々の血管における内膜肥厚の発症部位の分布に関与していることを示した.また,こうした壁近傍の流れはLDLの壁面濃度に大きく影響を及ぼすことがわかった.このことから,一見同様に見える壁せん断応力が低い領域においても流れの構造が異なり,そのような局所的な流れ場の違いが,病変の発症・進展に影響を及ぼしている可能性が示唆された.
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