本研究は脳内リン代謝動態を指標として、軽度低体温による脳保護効果のメカニズムを基礎的に明らかにする目的で行い、以下の結果を得た。 1.常温群(37℃)と軽度低体温群(34℃)のgerbilを対象に、虚血負荷前後での直腸温と海馬温を測定した。両群とも直腸温に比べて海馬温が低下していた。また、虚血後両温度は急速な低下を示したが、再灌流後海馬温は16分以内に、また直腸温は30分以内に虚血前のレベルに戻った。 2.常温群と軽度低体温群を対象に、両側頚動脈15分間閉塞前後における脳内リン酸化合物代謝動態を31P-MRSによって計測した。両群ともATPとPCrは虚血前のレベルの20〜30%まで急激に低下した。再灌流後、軽度低体温群では速やかに虚血前の90%のレベルまで回復した。常温群では回復が遅れ、かつ虚血前の80%のレベルまでの回復であった。Piは虚血後、両群ともほぼ同程度まで増加した。再灌流後、軽度低体温群では速やかに回復したが、常温群では回復の遅れと回復程度の低下を認めた。 3.細胞内pHは虚血後両群とも同程度まで低下したが、再灌流後軽度低体温群のほうが常温群に比べて速やかに回復した。 4.両群において14C-IAPを大腿静脈から注入後、オートラジオグラフィーを用いて虚血の範囲を検討し、両群間で差異がないことを確認した。 5.両群における海馬と大脳皮質における虚血性神経障害を病理組織学的に検討した。常温群では軽度低体温群よりも海馬や大脳皮質における細胞障害の程度が有意に高かった。
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