研究概要 |
本研究では,セリシンの優れた機能性に注目し,さらにはセリシンの有効利用を目的として,力学的な面において材料として利用可能なセリシンを含む含水ゲル膜の作製を行い、得られた試料の構造と物性、及び医用材料への応用に関する検討を行った。 当初の計画、及び昨年度検討してきた架橋剤としてのジメチロール尿素は医用材料として用いる際、僅かではあるが人体に対して毒性を有するとの知見を得たため、当初の計画を変更し、本年度はセリシンを含むゲル膜としてセリシンに柔軟剤としてのポリビニルアルコール(PVA)を重量比で1割を混合し、これにに架橋剤としてのクエン酸を各種混合量加え架橋した膜、及びセリシンに単にPVAをブレンドし熱処理した膜を作製した。 架橋ゲル膜について得られた結果は以下の通りである。(1)昨年度のジメチロール尿素よりも更に材料として十分に利用可能な高含水ゲル膜となった。(2)試料内部に化学架橋を導入したにも関わらず比較的高い含水率、即ち60%以上という高い値を示した。(3)力学的性質は実用的な強伸度を有し、若干硬めのゴムに近いものとなった。 PVAとのブレンド膜について得られた結果は次の通りである。(1)セリシンは全ての分率でPVA非晶鎖との間に強い相互作用を持ち,その水素結合の形成を確認した。(2)含水ゲル膜表面の親水性はガラス側膜面の方が空気側膜面より強い。(3)含水ゲル膜試料の高い細胞増殖性の可能性が示された。(4)含水ゲル膜中には自由水,不凍水,そして束縛水が存在する事が確認され,さらに,その束縛水にはPVAに束縛される水とセリシンに束縛される2つの状態の束縛水があること,およびPVAによる束縛はセリシンのそれより強いことが分かった。(5)酸素透過性実験から極めて高い酸素透過係数を有することが明らかとなった。
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