平成11年度には輻輳角に情報を限定した条件で、大きさ知覚と距離知覚を実験的に調べた。大型の3次元映像提示装置を用いて、円図形を提示し、被験者が液晶シャッター眼鏡を装着して提示された図形(標準図形)の大きさ、または距離を知覚し、記憶する。次に大きさおよび距離をランダムに変えて円図形を提示し、被験者がジョイスティックで図形を操作し、記憶した基準図形と同じ大きさ、または提示距離を復元する。知覚の精度は復元図形の大きさまたは距離の精度から求めた。大きさ知覚については被験者12名、距離知覚については8名に対して計測実験を行った。日常の視覚環境では物体までの距離が小さくなると、網膜上の像のサイズと輻輳角が比例して大きくなり、大きさの恒常性が保たれる。従って、物体の客観的な大きさの知覚に関わる中枢では網膜像のサイズを輻輳角の大きさによって、修飾している可能性が考えられる。図形の大きさを変えず輻輳角のみを変化させる視覚条件では、輻輳角の増加に伴って、客観的な大きさが縮小する事が予測される。被験者全員についてこのことは観測されたが、縮小の比率が0.5以上のグループ(3名)と0.15以下のグループ(9名)に分かれ、大きな個人差があることがわかった。一方距離の知覚精度においても個人差が大きく、距離知覚の精度が高い被験者は大きさ知覚についても高い精度を示した。平成12年度には、動きの領域で定義される図形に対して大きさ知覚と、距離知覚を計測した。両者の図形に対する大きさ知覚と距離知覚の関係は本質的に違いがないことを明らかにした。すなわち視覚対象物の大きさと距離の知覚を司る脳の部位は、明るさと、動きの領域で定義される図形に対する処理の後共通の部位で行われている可能性が示された。
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