本研究は、深達性の褥瘡や難治性皮膚潰瘍の治療に使用されている生理活性物質含有軟膏に代わる新しい医療用具の開発を目指した基礎研究である。生理活性物質の一つであるジブチリルサイクリックAMPの水溶液をヒアルロン酸のスポンジに含浸させた創傷被覆材を作成し、ラットを用いた動物実験により創傷治癒促進効果を調べた。 発酵法で製造された分子量約200万のヒアルロン酸の粉末を蒸留水に1%の濃度で溶解し、希塩酸でPH3.5に調整し、所定量の水溶性エポキシ化合物を添加してポリスチレン容器に入れて50℃の条件で5時間反応させながら濃縮した。その後、-85℃の冷凍庫で急速凍結して、凍結真空乾燥機でスポンジ状のシートを作成した。このスポンジを蒸留水に入れて未反応の架橋剤を洗浄除去し、再度、凍結真空乾燥により精製されたスポンジ状のシートを作成した。このスポンジを滅菌袋に入れ、121℃の条件で2時間、乾熱滅菌した。ヒアルロン酸スポンジは、エチレンオキシドガスやγ線による滅菌では変性してしまうことが判明したので乾熱滅菌を行った。ジブチリルサイクリックAMPは、水分のある状態での長期保存や滅菌において変性するため、使用する際に、水溶液を調製して濾過滅菌し、これを乾熱滅菌したヒアルロン酸スポンジに含浸させて皮膚欠損創に適用した。ラット背部全層皮膚欠損創にヒアルロン酸スポンジを適用し、ジブチリルサイクリックAMPの水溶液を含浸させ、ポリウレタン製の創傷被覆材で密閉して伸縮性テープで圧迫固定して創傷治癒過程を肉眼的ならびに組織学的に調べた。市販の創傷被覆材であるアルギン酸製の被覆材と比較して顕著な創傷治癒促進効果を発現した。 ヒアルロン酸スポンジの製法に関しては平成13年1月に特許申請を行ったので、今後、学会発表を行う。来年度は、他の生理活性物質としてアスコルビン酸2リン酸を使用して、ヒアルロン酸スポンジを基材とした新規の創傷被覆材の基礎研究データを蓄積し、新規の創傷被覆材の開発を目指す。
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